来たぜ、バングラデシュの大学病院(病理技術支援出張記)-4-

ここにたどり着くまで長かった……(移動時間的にも、ブログ的にも……)。

ここに来た目的は、日本式の病理検査・診断(特に私が得意な免疫染色)を導入するという目的。

バングラデシュは、日本の医療事情とは少し異なり、最先端の治療を受けるには個人病院(クリニック)であり、大学病院は貧困層の受け入れをする立場にあるのだ。

この病院では、資金不足、ベッド不足、看護師不足で、医療の提供レベルがとても厳しい状況だった。ベッド数の2倍以上の患者が「入院」している。どういうことか……それは、ベッドではなく“床”に横たわっているのだ。


ベッドが与えられている患者は、それ相応の料金を支払えた患者。そのお金が支払えなかった患者は床である。だが、この地域では「大学病院で死ねる」=「ステータス」となる。つまり、病院にもかかれない人がたくさんいるということだ。

廊下では、亡くなった患者の家族、親戚一同が大声で泣いている。これが、「いつもの」光景だそうだ。

オペ室は何の設備もない部屋の真ん中にベッドがあるだけ。

ベッド間の距離を見ると分かる……使用されていない部屋だと。

化学療法を受けている患者の部屋も他の部屋と同じで、布1枚で仕切られているのみ。

使用済みの薬剤瓶や注射器は、無造作に放置されている。

同じ時代に生きているとは信じがたい光景だった。

そんな病院の病理診断科とは、どんなところか。



検査室には、機械はほとんど無い。ミクロトーム1台がポツンと置いてある。


汚れたビーカーがいくつか並んでいた。


作製された標本は傷だらけの切片、色味の悪い染色性、サイズの合わないカバーガラス。

これで診断なんてできるんだろうか。

ミクロトームの替え刃が買えず、ぼろぼろな刃で薄切し切片は傷だらけ。

安い色素や試薬しか買えないため、質の悪い色素により汚い染色性。

大きいサイズのカバーガラスは高価なため、小さなカバーガラスしかない。

大学病院の給料は安すぎるため、大学病院で働くのは午前中だけ。午後からは、アルバイトで他のクリニックへ行く。つまり大学病院の仕事は、午前中だけ。それにより、標本作製までに数か月かかるそうだ。その間に患者は亡くなっていく。


貧困ではまともな医療もできない。それが現実。


免疫染色以前の問題だった……とにかく、「基礎から改善すること」が第一の目的に変わった。長い戦いとなりそうだ。


腹が減っては 戦は出来ぬ。

ランチタイムだ。

昼食が用意されていた。


「人気のお店のデリバリーだ!美味しいぞ!さぁ、食べろ!」と、皆のテンションMAX。

ワクワクしながら蓋を取ると……。


一面の米。

ど真ん中にゆで卵がド~~~~~~~~~~~~~~~~ン!!!

柳田:「これは何だ。」

やまさん:「ドライカレー的な?」

まずは一口……

!!!!!!!!!!!!!!!

ケモノ臭!口の中いっぱいの広がるケモノ臭!!!!

「めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」って声が聞こえる。

カレーって何かね? スパイスって何かね? スパイスに余裕勝ちするケモノ臭。

柳田:「あかん……あかんわ。あかん。こいつはぁ、ヤギだ。臭すぎる。」

溢れる米の波を見るのも辛い。

やまさん:「……もぐもぐもぐ……」

やまさん、食べているっ! 心なしか涙目だね……。




動けずにいる柳田にディップが声をかける。

ディップ:「エミイ、食べないの?」

……そうだね、食べないね。っていうか、食べられないよね……。

柳田:「あ……ん。悪い。口に合わん……ごめん。」

申し訳なさいっぱいに言うと

ディップ:「同じ。同じ。バングラデシュの食べ物は、口に合わない。」




え~!! バングラデシュ人ですよね!? は?




ほとんど食べていない柳田を見た院長が気にかけてくれる。

院長:「どうした? 食べられないのか?」

臭いとは言えない……そこで思いついた!


柳田:「辛いのが苦手なんです。すみません。私には辛すぎて…。」と。

実際、辛い物が苦手な柳田は、バングラデシュ料理全般が辛すぎて、食べられなかった。

そこで院長、立ち上がる!

院長:「おい!エミイのために、辛くないものを買ってきなさい!」

そう言われたお手伝いさんは走って出て行った。


数分後……。

サンドウィッチが来た。

「これは全く辛くありませんよ。どうぞ!」と。

わざわざ、有難うございます!!! 感謝!

サンドウィッチ! これよ! これ! ヤギ肉は入ってないやつ!

ルンルンで、大口開けてかぶりついた。




「…うっ……うっぷ」

吐きそう! 吐きそう! 

柳田の体が「これは体内に入れるな」と拒否反応を示しておる!!

固まった……。

理解できなかった。


恐る恐るパンを開いてみた。

生の真っ白い食パン一面にあふれんばかりのバナナのペースト。(しかも青臭い)

その中に…何か白い物が……「ささみ……」

何の鳥か分からないが、鳥肉だ。

ボイルされ、ほぐされたササミ様の触感と臭い。

青臭いバナナと、茹でられただけのササミ!!!

合わない!こんなにも合わないコンビが、生の食パンに挟まれている!!!!!!!

「うう…うううううぅぇぇ……」

嗚咽。止まらない嗚咽。

院長は笑顔で言った。

「どうだ? 辛くないだろ!? うまいか!?」

柳田は涙を流しながら答えた。

「Thank you…very…much…」

このとき以降、柳田は一言も言わなくなった



「辛いものが苦手だ。」と。



▼病理技術支援出張記

第1話: そうだ!バングラデシュに行こう!
第2話: 空港からホテルに行くまでの道のり
第3話: チッタゴン(バングラデシュ)の朝を迎えよう!

▼参考資料

柳田絵美衣「バングラデシュの医療事情と日本からの寄付の実態を考える」(2018年3月1日)。

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